初めて X を使う場合、Microsoft Windows や Mac OS といった他の GUI 環境に慣れている人は多少ショックを受けるでしょう。
様々な X のコンポーネントについての詳細の全てや、それらがどのようにやり取りするかについては理解する必要はありませんが、基本的なことをいくつか知っていると X を使う際に強力な武器になるでしょう。
X は、UNIX 用に書かれた最初のウィンドウシステムではありませんが、最もポピュラーなものです。X のオリジナルの開発チームは X を書く前に別のウィンドウシステムを開発していました。そのシステムの名前は “W” (“Window”の W) です。X は単にローマ字でその次の文字だというだけなのです。
X は “X”、“X Window System”、“X11”、もしくはその他の用語で呼ぶことができます。X11 を “X Windows” と呼ぶと気を悪くする人もいます。詳しくは X(1) をご覧ください。
X は最初からネットワークを意識してデザインされており、“クライアント - サーバ”モデルを採用しています。 X では、“X サーバ”はキーボードやモニター、マウスが接続されたコンピュータ上で動きます。このサーバはディスプレイの表示を管理したり、キーボード、マウスなどからの入力を処理したりします。各 X アプリケーション (XTerm や Netscape など) は “クライアント”になります。クライアントは“この座標にウィンドウを描いてください”といったメッセージをサーバへ送り、サーバは“ユーザが OK ボタンを押しました”といったようなメッセージを送り返します。
家庭や小さなオフィスのような環境で、1 台しかコンピューターがないという場合には、X サーバと X クライアントは同じコンピューター上で動くことになるでしょう。しかし、X サーバを非力なデスクトップコンピューターで動かし、X アプリケーション (クライアント) は例えばオフィス全体を捌くような高機能で高価なマシンで動かすことも可能なのです。この場合、X のクライアントとサーバの通信はネットワーク越しに行なわれます。
これは、ある人々を混乱させることがあります。X での用語は彼らが想定するものとは正反対だからです。彼らは“X サーバ”は地下にある大きなパワフルなマシンであり、“X クライアント”が自分たちのデスク上にあると想像するのです。
Xサーバとはモニターとキーボードがついているマシンのことであり、Xクライアントとはウィンドウを表示するプログラムだということを思い出してください。
X のプロトコルには、クライアントとサーバのマシンが同じ OS で動いていなければならないといったことを強制するものはなにもありませんし、同じ機種で動いている必要もありません。X サーバを Microsoft Windows や Apple の Mac OS で動かすことも可能ですし、そのようなソフトウェアもフリーのものから商用のまでいろいろとあります。
FreeBSD に付いてくる X サーバは XFree86 と呼ばれるもので、FreeBSD のライセンスに似たライセンスに従ってフリーで配布されています。FreeBSD 用の商用 X サーバも入手可能です。
X のデザイン哲学は UNIX のそれに非常によく似ており、“ツールであってポリシーではない”のです。 つまり、X はあるタスクがどのように達成されるべきかを示すものではありません。その代わり、ユーザにはツールが与えられ、それらをどうするかはユーザに委ねられているのです。
この哲学は、X ではスクリーン上でウィンドウがどのように見えるべきか、マウスでそれらをどうやって動かすか、ウィンドウ間を移動するのにどういうキーストロークを使うべきか (例えば Microsoft Windows における Alt+Tab)、各ウィンドウのタイトルバーはどのように見えるべきか、それらはクローズボタンを持つべきかどうか、といったことを示すものではないというところまで拡大して解釈できます。
その代わりに、X ではそういったことを“ウィンドウマネージャ”と呼ばれるアプリケーションに任せるのです。X 用のウィンドウマネージャは以下のようにたくさんあります。AfterStep、Blackbox、ctwm、Enlightenment、fvwm、Sawfish、twm、Window Maker、などなど。これらのウィンドウマネージャはそれぞれ異なるルックアンドフィールを持っていますし、いくつかは“バーチャルデスクトップ”をサポートしていますし、いくつかはデスクトップのマネージメントにキーストロークをカスタマイズできたり、“スタート”ボタンやそれに類するものを持っているものもありますし、“テーマのサポート”をしており新しいテーマを適用することによってルックアンドフィールを完全に変えることができるものもあります。これらのウィンドウマネージャやさらに多くのものはportsコレクションの x11-wm というカテゴリーからインストールすることが可能です。
加えて、KDE や GNOME といったデスクトップ環境はともにそれぞれのデスクトップに統合された独自のウィンドウマネージャを持っています。
それぞれのウィンドウマネージャはまた異なる設定機構を備えており、手で設定ファイルを編集しなければならないものや、設定作業のほとんどを GUI ツールですることができるものもあります。少なくとも 1 つ (sawfish) は Lisp 言語の変種で書かれた設定ファイルを持っています。
フォーカスポリシー: ウィンドウマネージャのもう一つの機能はマウスの“フォーカスポリシー”に関するものです。 全てのウィンドウシステムは、ウィンドウを選択しキーストロークを受け付けるようにするための方法が必要です。 そして、どのウィンドウがアクティブなのかを示す必要もあります。
よく知られているフォーカスポリシーは “click-to-focus” と呼ばれるもので、このモデルは Microsoft Windows で利用されており、あるウィンドウ内でマウスをクリックすればそのウィンドウがアクティブになる、というものです。
X は特定のフォーカスポリシーを採用していません。代わりにウィンドウマネージャがそれをコントロールします。それぞれのウィンドウマネージャが、それぞれのフォーカスポリシーをサポートしています。全てのものは click-to-focus をサポートしていますし、多くのものは他の方法もサポートしています。
最もポピュラーなフォーカスポリシーは次のものでしょう
- focus-follows-mouse
マウスポインターの下にいるウィンドウがフォーカスされるというものです。ウィンドウは最前面にある必要はありません。フォーカスを変えるには他のウィンドウにマウスポインターを動かすだけです。クリックする必要はありません。
- sloppy-focus
これは focus-follows-mouse を少し拡張したものです。focus-follows-mouse では、マウスがルートウィンドウ (背景) に移動した時には、フォーカスされているウィンドウがなくなり、キーストロークは単に破棄されます。sloppy-focus であればポインターが別のウィンドウに移った時のみフォーカスが変わり、現在のウィンドウから出ただけでは変わりません。
- click-to-focus
アクティブなウィンドウはマウスクリックにより選択されます。 ウィンドウは“持ち上げられ”、他の全てのウィンドウの前にきます。 ポインターが別のウィンドウに動いた時でも、全てのキーストロークがこのウィンドウに届きます。
多くのウィンドウマネージャはこういったものに加え、他のポリシーもサポートしています。ウィンドウマネージャ自身のドキュメントもよく読んでください。
X のツールを提供してもポリシーは提供しないというアプローチは、各アプリケーションでスクリーンに現われるウィジェットにも適用されます。
“ウィジェット”はクリック可能であったり、他の方法で操作可能な全てのユーザインタフェイス用アイテムを指す用語です。ボタンやチェックボックス、ラジオボタン、アイコン、リスト、などがそうです。Microsoft Windows はこれらを“コントロール”と呼んでいます。
Microsoft Windows や Apple の Mac OS はともに非常に厳密なポリシーをウィジェットに課しています。アプリケーション開発者は共通のルックアンドフィールに確実に従うことを想定されているわけです。X では、グラフィカルなスタイルやウィジェットのセットが特定のものに合わせたりすることに対してそれほど意識していませんでした。
すなわち、X アプリケーションに共通のルックアンドフィールを期待してはいけません。いくつかのポピュラーなウィジェットセットやその亜種があります。MIT のオリジナルの Athena ウィジェットや Motif (Microsoft Windows をモデルにした、斜めになったエッジやグレイの陰影のウィジェットセットを持っている)、OpenLook などです。
比較的新しい X アプリケーションのほとんどが、KDE で使われている Qt や GNOME プロジェクトで使われている GTK のようにモダンな見た目を持ったウィジェットセットを使っています。この点で言えば、UNIX のルックアンドフィールは収斂されてきており、初心者がより簡単に使えるようになってきています。